境界線上をゆけ

テクノロジーとビジネスの狭間で格闘する

ペイパル創業者の『競争は負け犬がするもの(英文)』を読んだ感想。

Paypal創業者が伝えたかったこと

ピーターティールはPayPalを創業し、facebook創業時に約5400万円を投資した事で約1070億円のリターンを得たという筋金入りの起業家であり投資家です。


先日、その彼が書いた話題のエッセイがウォールストリートジャーナルに掲載されて話題だったので読んでみました。


意訳しながら解説しますが、結論から言うと、


「独占にも"社会にとって良い独占"と"社会にとって悪い独占"があるよ」というお話です。


この「独占」と「競争」を対比させ、僕たちの価値観を問い直しているんですね。そもそも「競争」って、そんなに素晴らしいことなのか?と。

競争よりも独占しろ

ピーターによれば、アメリカ人は「競争」を過大評価し過ぎる傾向があるそうです。競争があるからこそ社会主義から免れているなんて、まさか信じているの?と。


だって、実際には「競争」と「資本主義」は対立関係にあるわけで。完全競争のもとでは利益が薄くなり、資本がぜんぜん貯まりません。だとしたら、企業が利益を生み続けたければ、模倣しやすいビジネスをしてはダメだよねと。


例えば、米国の航空産業は、年間何百億ドルという市場規模にも関わらず薄い利益率に苦しんでいます。
一方、航空産業より小さなマーケットを独占して航空産業の100倍の利益を出している会社があります。


どんな会社かって?それは、あのGoogleです。

利益が出ない会社は価値がないということ

2012年の航空産業は、旅客一人の平均片道運賃の178ドルに対し0.37ドルの利益しかなかったそうです。それに対して、この年に500億ドルの売上をあげたGoogleは、利益率が驚異の21%(!)まさにゼロから市場を作り出し、今にいたっては「無敵状態」。2014年4月時点で、世界の検索エンジン市場の約68%のシェアを有しているとも言われています。(MicrosoftとYahooはそれぞれ19%と10%)


彼は、経済学者の言う「理想的な完全競争状態」というモデルに否定的です。過度な競争状態では、どの企業も大して差がない商品やサービスを提供する。絶え間ない新規参入により価格が下がり続ける。常に価格の変動に翻弄され、薄利経営が続く。


そんな状態で、利益なんて出るわけがないだろと。利益が出ないということは、価値がないということだよと。
(なんという厳しさ・・・涙)

独占するから未来を考える余裕ができる

Googleのような独占的ビジネスモデルを生み出すのは確かに難しいけど、そこを目指すことは"社会にとって"重要だと力説しています。なぜなら「競争」ばかりに目を向けずに「独占」することで可能になることがあるからです。


商品の価格が「神の手」によって決められている完全競争状態に対し、独占状態ではその企業が「神の手」となり、競争がない限り企業は自由に利益の最大化を図ることができます。


競争相手がほぼ存在しない余裕が、Googleの健全な労働環境、高品質の製品と世界への影響力を担保しているのは間違いないと。「悪をなさなくてもお金は稼げる」という社訓を掲げても自分の生存を脅かすことがないのも、背景に「独占」があるからだよ、と。


ビジネスにおいてお金は重要です。独占者にはお金以外のことを考える余裕がありますが、反独占者には余裕はありません(悲しい事実ですが)。
完全競争市場においては、その日その日を重視しすぎるゆえ、未来の事をまったく考えられないんです。


その日々の葛藤から脱出できる手段こそが「独占的利益」なんだよ、とピーターは喝破します。

独占は悪じゃない

「それは独占者自身にとって都合が良いかもしれないが、他人にとっては問題なのではないか?」
「その莫大な利益の源泉は誰なのか?独占者ではない人間、つまり顧客じゃないか!」
こういう指摘もあるでしょう。確かに、利益の源泉は突き詰めれば全て顧客からのお金ですし、独占企業が批判の目に晒されても仕方ないとは思いますが・・・。


それは時代の進歩が止まっていれば、の話です。


もし世界の進歩が停滞していれば、独占企業はただの「高い家賃の徴収人」に過ぎないでしょう。消費者には他の選択肢がなく、独占企業が好き放題に価格を設定できてしまいます。あの「モノポリー」のように、どれほど年月が経ってもボード自体は変わらず、新しいルールを発明できません。


しかし、僕達が住む現実の世界は常に変化に満ちています。

新たな独占が独占者以外に富を与える

常に消費者に新しい価値観を提示している「革新的な独占者」は、社会にとって好ましい存在というだけでなく、社会進歩の原動力ともなっているはずです。
政府も、この社会メカニズムを理解しているからこそ、独占を禁止しながら同時に「推奨」もしているんです。


AppleはiPhoneで莫大な利益を得ていますが、アプリ開発環境のリリースによって結果的にアプリ開発者にも恩恵を与え、社会的価値を増やしています。
これは、単に人々から搾取したものではなく、新たな独占モデルが収益機会を他の人にも提供しているという良い例です。

新しい独占が世界を前に進める

このGoogleやAppleに象徴される「新しい独占メカニズム」が、独占とイノベーションが矛盾しないことを既に証明しています。


独占企業が時代を逆戻りさせてしまうというなら、我々はそれを全力で阻止すべきかもしれません。しかし事実として、独占者が生み出してきたのは多くの場合、イノベーションを生み出す原動力なのです。


これが完全的競争のもとでは永遠に実現できないことなのです。


「幸せな家庭は自然と似てくる、しかし不幸な家庭はそれぞれ個性的だ。」という言葉があるけど、ビジネスはその逆だよと。そういった内容でした。

[感想]新規事業に必要な模倣困難性という視点

これまで、独占を考えてプランを作るという発想はまったくなかったので驚くと同時に「そんなもん、どうやって作ったらいいんだよ!」という心の中のツッコミを抑えらえない・・・のですが。


ブルーオーシャン戦略とか言うけど、すぐにライバルが追いついてくるから結局同じじゃないか!と思ったりして。でも・・・。


それも結局、利益が取れていた市場がジャンルとして新しいというだけで、マネしにくいかどうかはまた別の話ですよね。模倣困難性を最初から意図してビジネスモデルを作る、というのは、事業づくりの人間として、絶対に必要な視点だと思います。


でも、これをピーターティールに言われてしまうと「お、おっしゃる通りです・・・」としか返せないのが悔しい所なんですよね。

0to1 ゼロ・トゥ・ワン - 君はゼロから何を生み出せるか

ちなみに、このエッセイを収めた英語版「0to1」は全米で9月16日から発売。
和訳版は、9月25日に発売予定だそうです。Amazonで予約始まってます。

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

  • 作者: ピーター・ティール,ブレイク・マスターズ,瀧本哲史,関美和
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2014/09/25
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る

本日の学び:

「独占は絶対悪ではない。良い独占と悪い独占がある。」